馬也ホースレーシング

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【ウマ娘】シンデレラグレイ65R ディクタストライカとの仮想有馬記念は、「あの頃の河内洋への救い」だ。

 ウマ娘シンデレラグレイの感想記事をしばらく書いておりませんでしたが(そうはいっても、毎話しっかり楽しませていただいております)、間もなくコミックス5巻が発売となったり、「ウマ娘」関連ワードが今年のネット流行語大賞上位を席捲したりなど、引き続き話題に事欠かない中、今週のエピソードについてはしっかりと感想を残しておきたいな、と思いました。

 

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 今週のシンデレラグレイは、タマモクロスのラストラン宣言を受けて呆然自失となったオグリキャップの前に現れたサッk…もといディクタストライカが、オグリキャップに仮想有馬記念の並走を仕掛け、「領域」の一端とそこに至った経緯を明らかにするエピソードでした。

 

 原作においてはこの時期は、ジャパンカップまでオグリキャップの主戦を務めた河内洋騎手が降板となり、岡部幸雄騎手に鞍上が交代したタイミングでした。そして、その岡部騎手の提言により中山競馬場でのスクーリングが行われ(これについてはカサマツメンバーを絡める形で描かれましたね。いいエピソードだったと思います)たことが知られています。

 

 加えて、天皇賞・秋の後にタマモクロスの担当調教助手がオグリキャップの担当調教助手に飼い葉のアドバイスを送り「結果的に敵に塩を送ることになった」というエピソードも、ベルノライトと小宮山トレーナーを通じて描かれました。

 

 さて、この時期において一番の不遇をかこった人物はといえば、河内騎手であるというのは疑いようの余地もありません。近2走は敗戦こそしているものの4歳(年齢表記は当時)ながら古馬GⅠで2着・3着と立派な成績を残しながらも、オーナーサイドからの不満の声と「ネームバリューのある騎手を乗せてほしい」という意向からの鞍上交代劇となりました。

 

 オグリキャップのGⅠ初勝利はこの1988年の有馬記念になることはすでに史実の示す通りですが、河内洋騎手がオグリキャップに騎乗したのはその一つ前のジャパンカップが最後で、中央入り後のオグリキャップを怪物にのし上がらせる一端を担いながら、河内騎手はオグリキャップでGⅠのタイトルを手にしていないのです。

 

 このようなことがあったからかはわかりませんが、後年になっても河内騎手がオグリキャップのことを語ることはほとんどないのですが、それでも「オグリキャップに中央の競馬を教えたのは自分」という言葉を残している通り、その思いには忸怩たるものがあったのでしょう。

 

 そして、その河内騎手が同時に主戦騎手を務めていたのが、ほかならぬディクタストライカのモデルとなったサッカーボーイでした。

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 サッカーボーイは、当時はまだ牡牝混合だったGⅠ阪神3歳S(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)を制したのち、88年クラシックシーズンの西の大将格と目されたものの皐月賞は脚部不安で回避、ダービーではサクラチヨノオーの15着に敗れるなど、精彩を欠いた春のクラシックを過ごしました。

 

 河内騎手がサッカーボーイに騎乗するようになったのは皐月賞回避後、ダービーの前のGⅡNHK杯(現・GⅠNHKマイルカップ)からで、この日は京都競馬場で行われたGⅢ京都4歳特別(現・京都新聞杯)にオグリキャップが出走していたものの、その騎乗を断る形でのサッカーボーイへの騎乗でした。この時オグリキャップに騎乗したのが、タマモクロスの主戦騎手であった南井克己騎手であり、その経験が秋の天皇賞での騎乗に活きたというエピソードは以前に紹介した通りです。

 

chisou-horse.hatenablog.jp

 

 その後秋に向けて再起を図ったサッカーボーイはGⅢ中京4歳Sで皐月賞馬ヤエノムテキを撃破、返す刀で古馬GⅢ函館記念に挑み、メリーナイスとシリウスシンボリの2頭のダービー馬、2冠牝馬マックスビューティーを相手にいまだ破られていない函館競馬場芝2000mのレコードタイムで駆け抜けます。「シンデレラグレイ」では、このレースで「己を証明するために」ディクタストライカは「領域」に突入しました。

 

 その後GⅠマイルチャンピオンシップを制し、年末の有馬記念に向かうサッカーボーイであり、ディクタストライカですが、「シンデレラグレイ」において「己を証明する領域」に、同期であり、同じ河内騎手を背にのし上がったオグリキャップをいざなう構成は、もちろんifでもないフィクションなのですが、「もしかしたら心の奥底に秘めていた河内洋の無念への救い」のようにも見えます。

 

 シンデレラグレイに限らず、「ウマ娘」には過去の名馬やそれにかかわった人たちの、それでもままならなかった現実への救いが描かれている、というのはこれまでに何度も言及してきました。

 

chisou-horse.hatenablog.jp

 

 それはたとえば、TVアニメであれば1期のサイレンススズカであり(当時東宝で制作プロデューサーを務めていたのが、シンデレラグレイ原案の伊藤準之介氏)

 

chisou-horse.hatenablog.jp

 

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 シンデレラグレイにおいては、カサマツ篇でノルンエースが代弁した「一緒に走ったからわかる」という、当時の笠松競馬関係者の声にならぬ声だったりします。

 

chisou-horse.hatenablog.jp

 フィクションであるからこそのこういった歴史やそれにかかわった人馬へのリスペクトが、ある種のメッセージのように描かれる点が「ウマ娘」コンテンツの面白いところであり、競馬ファンとしても「推せる」ポイントだと、あらためて実感した今週のシンデレラグレイでした。