馬也ホースレーシング

一口馬主・馳走(はせ・はしる)のブログです。シルクHC・ノルマンディーOC・DMMバヌーシーにて出資中。シルク2021年産・ターコイズフリンジ命名。競馬以外の話題はnoteにて発信中。 https://note.com/machino_sokoyori

競馬英語から感じる、かの国の「馬ファースト」について。

 全くもって突然な話なのですが、最近、英語の勉強をし直しています。まずは、TOEICを受けてみようかなと思い、問題集なんぞを買い込んで勉強したりもしているのですが、息抜き&実践練習的に「レーシングポスト」の記事を英文のままで読んだりもしています。

 

 日本でもおなじみの英国の競馬メディアであるレーシングポスト。

www.racingpost.com

もちろん、サイト内の表記は全部英語なワケですが、やはり専門的な記事を扱うサイトなので、普通に英語の参考書や問題集を解いている限りは中々行き当たらない単語や言い回しにブチ当たるわけです。日本語でも、競馬用語が競馬に興味のない人にとってはほとんど触れる機会がないのと一緒ですね。 

 で、わからない単語の意味を調べたり、日本語の競馬用語に置き換えたらこういうことなのかな?なんていうことを想像しながら記事を読んでいるのですが、英語と日本語の競馬的言い回しの違いで特におもしろいなと思っているのが、英語ではあらゆる言い回しが、常に馬を主軸にしているということです。

 

 具体的な例を挙げてみましょう。先日、種牡馬としてニュージーランドで繋養されていたガリレオの代表産駒の一頭であるリップヴァンウィンクルが14歳の若さで死亡するという訃報がありました。

news.netkeiba.com

www.racingpost.com

 

 ニュースの概要については上記ネットケイバの記事をご覧いただくとして(レーシングポストの方の記事では、現役時代に本馬を管理したエイダン・オブライエン調教師のインタビューコメントなども読むことができます。)、この記事の中で特に日本語の表現と英語の表現の違いがおもしろいなと思ったのがこちらの写真のキャプション。

f:id:chisounin:20200803222724p:plain

racingpost.comより引用

 

“Rip van winkle:all five wins came under Jhonny Murtah”

 

これを競馬用語も織り交ぜつつ日本語に訳すと、

 

「リップヴァンウィンクル:全5勝はジョニー・ムルタ鞍上によるもの」

 

となるわけですが、ここで注目して欲しいのが、騎手と馬との位置関係を表す言葉について。

 

日本の競馬用語で、レースに騎乗するジョッキーのことを指す言葉はご存じの通り「鞍上」。読んで字のごとく「鞍の上に乗る人」という意味ですね。これに対して、英語で同様の表現をするときには”under ○○”、直訳すると「○○(騎手の名前)の下で」となるわけです。要するに、日本語においてはジョッキーを主軸にして、その位置を表す表現となっているのに対して、英語ではあくまでもまず先に馬がいて、馬を主軸にすると、それを表す位置関係は「騎手の下」という言い回しになる。つまり、言葉の段階からすでにかの国では「馬ファースト」なのです。そのうえで、あくまでも馬はそれを御する人間の下という風に、主従関係を厳格に規定しているのも、長い歴史の中での人と馬との関係性をとてもよく表しているように思えます。

 

 このほかにも英語における「馬ファースト」がわかる日英の表現の違いとしては、レース発走時にゲートが開いて馬が飛び出す際の実況アナウンスのフレーズにも見て取れます。日本語の場合は「スタートしました。」というフレーズが一般的ですね。要するに、ゲートが開いてレースが始まったという物理的状況をそのまましゃべるわけです。もちろん、実況の表現としてはこれ以上ないほどの大正解。対して英語では”They’re off”といいます。グリーンチャンネルの海外競馬番組『All in line』などで海外レースの映像を観る機会がある方にはおなじみの言い回しですね。この言い回しは、和訳すると「They(彼ら)=レースに出走する馬たちが、ゲートからoffしました」ということになります。つまり、この言葉が説明している状況は、「ゲートが開いてレースが始まった」ということではなく、「馬がゲートから出た」というものになるわけです。ここでも、あくまでも馬が主体になっているのです。

 

 このように、それぞれの言語における細かな表現の違い一つをとっても、国が変われば馬事文化へのアプローチも変わる、という興味深い事情が見えてきます。引き続き、日英の馬事文化の違いがわかるような英語表現や単語を見つけたら、折に触れて紹介していきたいと思います。

※なお、ここでいう日英は、日本と英国ではなく日本語と英語という意味なので、「英」には北米やオセアニアなども含んでます。